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​研究活動

About my research

私の研究に関して学生や一般の方への発信を目的としたページです。研究者の方は経歴タブのリンク先の論文等をご参照下さい。

私の研究は日本学術振興会の科学研究費助成事業(略して科研費とも呼ばれます)からの研究費でサポートして頂いています。科研費は国の税金で賄われており、サポートを受ける研究結果は一般の方に対して何らかの形で公開する必要があります。教育に関する研究は、実際の講義、学生へのアドバイスなどに役立つわけですが、研究内容をさらに多くの方に知っていただくためにこのページを作成しています。

​​なぜ研究をするのか

グローバル教育、グローバル人材などという言葉があふれ、幼稚園から英語を勉強する子供が増える中、「ゆとり教育」や18歳人口の低下による受験の多様化によって、大学生の英語力は低下しています。その現状に対応するため、様々な大学では英語授業のレベル分けなをど行い、必要な学生には中高で学んだ文法を復習できるような授業も提供しています。
そうした「リメディアル」や「初級」の授業を教える中で、年々「冠詞」や「副詞」といった教科書で使われている基礎的な用語を理解できない学生が増えているのに気付きました。これは、英語の授業でコミュニケーションが重視されるようになり、文法を扱う時間が減ったり、文法用語を使わない傾向になったことが原因だと思っています。
「学ぶ事」よりも「使う事」、「正確さ」よりも「流暢さ」が重視される中、日本人の英語でのコミュニケーション能力が伸びたのであれば、それは良い傾向とも言えるでしょう。しかし、実際はどうでしょうか。大学生に英語を教えていて感るのは、英語が好きな学生のコミュニケーション力は多少上がっているけれど、正確さに欠けるケースが多いことです。(残念なことに、英語を専門とする学部の学生でも同じ事を感じるケースが増えています。)英語が苦手な学生にいたっては、コミュニケーションどころか基礎的な単語や文法もしっかり理解できないまま大学生になってしまっています。「日本人は英語の読み書きはできるが話せない」とよく言われた時代と比べ、読み書きのレベルは下がり、力が入れられているはずのコミュニケーション力も伸びていないというのが現状です。(あくまでも一般的な傾向です。学習、練習を積み重ねた結果、高い英語力、コミュニケーション力を獲得した学生にも沢山出会ってきました。)
英語はスポーツと同じで、基礎体力をつけ、ルールを学んでから練習を繰り返すことで上達します。そして練習をしながら新しい戦略方やテクニックを学んでいく必要があります。適当に練習だけしていては、いつまでたっても大きな進歩は期待できません。「会話は好きだけど文法は嫌い」、「文法なんて気にしなくても通じる」、「TOEICが高得点でも英語が話せない人がいる」など、正確さは必要ないとする意見もあるのは確かです。海外旅行でのサバイバル英語が目標であれば、確かに文法は気にしなくてもよいでしょう。ただ、コミュニケーションの道具としての英語を使いこなし、仕事に生かす、海外で事業を展開する、海外に住む、といった目標を達成するには、正確さも重要です。留学やビジネスの場で英語がつたないという理由で「馬鹿にされる」「同等に扱ってもらえない」という経験をした人は少なくないのです。
昔のように、教科書を1行ずつ日本語に訳す授業に戻すことが良いという事では決してありません。しかし、「彼女の」をshe'sやher'sとする学生、buildの過去形をbuildedとする学生、複数のSと3単現のSが混乱している学生が毎年増えていく様子を見ていて、英語を「使う」まえに基礎を「学ぶ」ことが重要だと感じます。
「学ぶ事はは面白くない、役に立たない」「学ぶより使うが大事」という近年の英語教育の中で、「学ぶ」と「練習する」を繰り返すことで「使う」に繋がるという考え方を広めていきたいという思いで研究をしています。

Metalangauge and Langauge Proficiency:メタ言語と言語習得

メタ言語とは
メタ言語とは、言語を説明するための用語で、文法用語などもこれに含まれます。これらの用語の理解度と英語力の関連を調べました。


研究結果
英語を専門としない学部の大学生1,180名を対象に、メタ言語テストを実施した結果、「名詞」「副詞」「冠詞」など基本的な文法用語を理解していない学生が多いことがわかりました。639名のメタ言語テストの結果をTOEIC Bridge®と、87名の結果をVELCテストの結果を比較したところ、メタ言語の理解度と英語力に相関関係がある(文法用語がわかる学生の方が、テストで高い点を取っている)ということがわかりました。

 

学習者の方々へ
英語を使う為に難しい文法用語を理解している必要はありません。日本語を使う際、いちいち主語、述語、目的語など考えないでしょう。しかし、敬語や謙譲語など普段から使っていない日本語に関しては調べたりすることもありますよね。外国語を学ぶ場合、文法を理解するためにはある程度の文法用語が必要になることもあります。下の研究にもあるように、理解していない文法事項は使えないことが多いからです。
一般的な英会話であれば中学の頃の文法で十分です。難しい文法参考書ではなく、説明が短く、簡単な単語を使った練習問題の多い、中学校英語のドリルがお薦めです。

Knowledge and Production:知識と産出力

知識と産出の関係
母国語を習得する際は、成長と共に会話ができるようになり、その後文法などを学びます。それは日々大量の言語を聞き、「吸収」することによって習得がおきるのですが、第2言語や外国語はそう簡単にはいきません。国際結婚など母国語の違う両親を持つか、帰国子女のように両親の言語と異なる言語の国で生まれ育たない限り、「吸収する」には母国語以外の言語に触れる量が少なすぎるからです。(近年、オールイングリッシュの保育園や幼稚園が増えてきていますが、そういった環境では「吸収する」ことも可能かもしれません。)さらに、言語を「吸収」するには年齢制限があるとされていて、個人差はありますが、小学校高学年から中学生になるにつれて、吸収する力は衰えていきます。しかし、中学校から英語を学習するのは遅すぎるわけでは決してありません。

吸収できない年齢になると、「学習する」という過程が必要になってきます。ここで学んだ知識(宣言的知識)は、練習を繰り返すことで考えながら使える知識(手続き的知識)、そして最終的に自然に使える知識(自動化された知識)に変わっていくとされています。

ただ、上にも書きましたが、近年「学習する」という過程が疎かになっている傾向があります。知識の無いまま実践を繰り返しても、よく使うフレーズなど以外は使えるようにならないという研究結果もあります。そこで、一般的な日本人の大学生はどれくらい英語の基礎文法を理解しているのか、そしてその文法をどれくらい書いたり話したりで使うことができるのかを調べてみようと思いました。

研究結果
300名以上の大学生を対象に、英語の文法テスト、英文の間違い探しテスト、短文の日英翻訳テストを実施しました。

その結果、文法ルールテストや間違い探しテストでは、間接疑問文や関係代名詞など複雑な文法だけでなく、複数のSや否定文の作り方、冠詞といった一見簡単そうな文法事項もレベルが高いという結果になりました。

そして、それらの文法事項は使う段階(翻訳テスト)でも同じく難しく、知識の無い文法事項は使用できないという事が明らかになりました。「文法がわからなくても使えればよい」という意見はサポートできない結果となっています。

さらに、45名の学生にスピーキング版の短文翻訳テストと絵描写テスト(イラストをみて状況を説明するテスト)を受験してもらったところ、筆記テストと同じような文法事項が同じくらい難しいという結果になりました。本来であればスピーキングのほうが間違いが多いと予測されるのですが、学生達は話すスピードが遅く、スピーキングテストでも「とっさの判断」ではなく「じっくり考えて」発言しているということもわかりました。これは協力してくれた45名に限らず多くの日本人英語学習者に共通することだと思います。

学習者の方々へ
じっくり考えても、理解していない文法事項は間違ってしまします。
「間違っても良いから話して」という意見も多いですが、日本人は性格的に「間違いたくない」というのが本心だと思います。内容に支障のない程度の間違いであればまだよいですが、通じなかった時のショックは英語嫌いに繋がります。ゆっくりでも勇気を持って発言できるようになるには、基礎文法の理解が大切ではないでしょうか。そして自分の英語にある程度の自信がついてくると、自然と発言する機会も増え、流暢さにもつながるはずです。

Effect of short-term study abroad: 短期語学留学の効果

留学すれば英語は伸びる?

近年の大学生は内向き傾向と言われていますが、留学する学生の数は年々増え続け、2017年度には10万人を超えました。中でも比較的費用も安く、卒業時期にも影響しない1ヵ月未満の短期語学留学は大学生に人気で、2017年度の参加者は約6万7千人です。

ただ、大学で英語を教えていて、「留学経験のある学生=英語ができる」ではないと言えます。一度も海外に出た事がなくても英語力の高い学生は沢山いますし、何度も短期留学を繰り返してもあまり上達のみられない学生にも会ってきました。留学、とくに期間が短い語学留学で、英語力は伸びるのでしょうか。

研究結果

20名の協力者に、留学の前後に色々なテストを受験してもらい、結果を比較したところ、文法の知識、短い文を英語にする時の正確さ、6コマの絵の口頭説明、ネイティブスピーカーとの会話テストでほとんど伸びは見られませんでした。ただ、それは全体としての数値で、個人差はありました。短期間でも会話の流暢さが伸びた学生が何名かいましたが、残念ながら留学前よりもテスト結果が悪かった学生もいました。

留学前や留学中についてのアンケート結果とテスト結果を比較してみると、伸びた学生達には共通点がありました。それは、留学中に授業以外で積極的にホストファミリーやルームメイトと会話をしたり、行動を共にしていたという点です。もう一つは出発前の英語力です。ある程度英語が出来る学生の方が、留学中の体験を有効活用できるようです。

学習者の方々へ

留学、とくに短期留学の利点は英語力の向上のみではありません。海外で様々な人々と出会い、違う文化に触れることはかけがいのない体験です。

ただ、「留学する=語学力がつく」ではないという事は知っておくべきだと感じます。留学後、多くの学生が「行っても英語が使えなかったからまた行きたい。」といった感想を持ちますが、残念ならがら次の留学に向けて英語の勉強を頑張る学生は少数派です。

語学学習は留学しなくてもできます。そしてこの研究を含め、出発前の語学力が高い方が伸びるという研究報告も沢山あります。留学は「勉強したことを実践する場」です。留学の経験を最大限にする為にも、日本での学習を大切にして欲しいと考えます。

Person Rolling Suitcase in Airport
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